代表挨拶

 2020年8月から2022年8月までの任期で在日コリアン弁護士協会(LAZAK)の代表を務めます、弁護士の韓雅之です。
 LAZAKは私が代表を務める間にちょうど設立20周年を迎えることになります。

 旧植民地であった朝鮮半島の人々が日本に渡ってきて以来100年近く経ちます。朝鮮半島から日本に渡ってきた人を1世とすれば、現在、日本に住む在日コリアンの子どもたちは、4世、5世になります。在日コリアンは、何世代にもわたって日本社会に定着して生活をしている人々です。
 定住が進む中、在日コリアンの価値観も多様化してきました。「帰化」をして日本国籍を取得する人もいれば、「帰化」をせず、「韓国」や「朝鮮」といった国籍表示を持ち続けている人もいます。名前について、韓国・朝鮮式の名前を名乗る人もいれば、日本式の通称名を名乗る人もいます。国籍国である大韓民国や朝鮮民主主義人民共和国との交流や親しみの度合いも、人によって様々です。あえて共通点を探すとすれば、先祖が朝鮮半島出身であるというルーツ(出自)を有すること、日本に定住している、ということになるでしょう。
 日本で生活する在日コリアンは日本で生まれ育った人がほとんどです。およそ人は生まれ育ってきた社会に愛着を持つものです。現在も将来も生活していく場所が日本であればなおさらです。そして、成長すれば、その社会に貢献したい、と思うことも人として自然な感情です。反面、生まれ育ってきた社会に受け入れられたい、自らのルーツ(出自)を否定されず、尊厳をもって生活していきたい、と願うことも人として当然です。
 在日コリアンは、日本人が圧倒的多数(マジョリティ)の日本社会で、異なるルーツ(出自)を持つ少数者(マイノリティ)であるからこそ、自身のルーツにいやおうなく向き合わされている、といえるでしょう。
 在日コリアンの願いは、生まれ育ってきた日本社会で、自らのルーツ(出自)を否定されず、尊厳をもって生活していきたい、そのような社会を子や孫に引き継いでいきたい、ということにあります。

 しかし、残念ながら、ここ10数年の在日コリアンをとりまく人権状況は、信じられないほど悪化しています。在日コリアンの排斥を訴える右派団体が活発に活動を始め、団体構成員が京都朝鮮第一初級学校を最初に襲撃したのは、2009年12月のことです。以来、韓国との国交断絶や在日コリアンの排斥を訴える過激なデモ・街頭宣伝が、全国各地で、毎週のように行われるようになりました。書店には、嫌韓本が並べられるようになりました。2013年には、「ヘイトスピーチ」が「流行語」大賞にノミネートされました。このような時代状況を反映して、2016年には、いわゆるヘイトスピーチ解消法が成立、施行しました。しかし、ヘイトスピーチを禁止する条項さえ存在しない理念法にとどまっています。
 わたしたち在日コリアン弁護士も標的にされました。2017年から2018年にかけて差別を煽動するブログに煽られた人たち約1000名が、全国の在日コリアン弁護士に対して、各自が所属する弁護士会に懲戒を求める請求を行いました。大量懲戒請求事件、と呼ばれる事件です。

 しかし、私たちは日本社会に絶望していません。ひとつに、日本には、在日コリアンのおかれた境遇に共感し、ヘイトスピーチやヘイトクライムと闘ってくれる、多くの弁護士や市民の方々がいるからです。
 ひとつに、日本では、在日コリアン以外にも、他の属性をもった少数者(マイノリティ)や社会的に弱い立場にある人々が、社会からの不当な差別、偏見に対して反対の声を上げ、これに共感する輪が少しずつ広がっているように感じるからです。
 差別の問題は、個人の属性によってラベリングされ、ひとくくりにして扱われることとの闘いと言えるのではないでしょうか。属性・ラベルによってひとくくりにするのではなく、自分自身を見てくれ、という訴えと言えるのではないでしょうか。個人の人格的自立をかけた闘い、と言いかえることもできるように思います。「出自(ルーツ)」や「国籍」というラベルでひとくくりにして、不利益に扱ったり、偏見を向けるのではなく、個々の人を見なければならない。肌の色や、障害の有無、男女といった性別、性自認・性的指向といった属性によって、ひとくくりにされない。不利益に扱われない。偏見を向けられない。そんな社会を目指す闘いと言えるのではないでしょうか。
 私たち弁護士は日本国憲法を学びました。日本国憲法を学んだ者は、憲法とは、人権保障のための体系であり、人権保障とは、個人の人格的自立、個人の尊厳を最高の価値とする、ということを知っています。私たちは、在日コリアンで結成される弁護士の団体として、自らのルーツ(出自)を否定されず、尊厳をもって生活していける社会の実現を目指します。また、在日コリアンのみならず、日本のあらゆるマイノリティの人々の人格的自立が否定されず尊重される社会の実現をめざしていきたいと考えています。

2020年8月-2022年8月 LAZAK代表 韓雅之

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